雇入れ時の健康診断費用は会社が負担すべきもの

直接労働トラブルにつながる可能性は低いと思われますが、非常によく質問される事項であり、別ブログで記事にした際にもアクセスが高く、一般的に関心の高い事柄と思われた為、従業員が入社した際の雇入れ時健康診断の費用負担について書きます。


結論から言うと、雇入れ時の健康診断の費用は会社が負担すべきものです。これは政府の通達によって明記されています。

しかしながら、現実には多くの企業が採用が決まった労働者に対して入社書類として健康診断書を提出するよう求めてきます。これはみな違法行為をしているということでしょうか。

実はこれは違法とはいえません。労働安全衛生規則という法令において、

「ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。」

と定められています。

要するに、

入社が決まった労働者が、たまたま最近(3ヵ月以内)健康診断を受けていてその診断書を持っているというのなら、それを提出してもらえば会社で健康診断を実施しなくてもいいよ例外的に、

と言っている訳です。

この規定を逆手にとって、採用内定者に入社書類として健康診断書を求め、健康診断の実施と費用負担の義務を多くの企業が免れているのが現状です。「健康診断を受けてきて下さい。」という言い方はせずに、あくまで「書類を提出して下さい。」と言っているところがミソです。会社は「受けろ」とはいえないのです。従業員に自費で受けて来ることを要求する根拠となる法律がないのです。

この現状は労働基準監督署などの監督行政も承知のうえですが、法違反とまではいえないため行政指導はできません。法令上の健康診断実施義務は会社にあり、労働者はそれを指摘して断ればよいという理屈になります。

しかし、普通は入社したばかりで会社に対してなかなか断れるものではありません。労働者が法令をたてに健康診断書の提出をずっと拒めば雇入れ時健康診断はいつまでも実施されないことになり、会社は労働安全衛生法違反として労基署の取り締まりの対象になります。これに関して法的に労働者の責任はありませんが、一方でこれから働いていく職場で肩身のせまい思いをしたり、今後会社から目をつけられて嫌がらせを受ける恐れも十分にあります。

自分はそういうことは平気なのでハッキリ言える自信があるという方でなければ、健康診断を自分で受けて提出した方が無難かもしれません。ただし、健康診断書を提出しないことを理由に会社が懲戒処分を科してくることは一般的に考えて妥当とは思えません。これについては争う余地は十分にあるでしょう。



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