労災か否かを判断するのは会社ではない

知人が病院に行ったとかそういう話を聞くと、職業柄「それは労災ではないのか?」とふと考えることがあります。

仕事中にケガをしたとか、業務が原因でケガや病気になった場合は労災に該当するのが通常ですが、このあたりをあまり意識せず病院に行って保険証を提示する労働者が少なくありません。保険証(健康保険被保険者証)は業務以外のケガ・病気の場合に使うものであり、労災に該当するケースでは使えない、つまり労災申請書類を病院に提出するか、ケースによっては労働基準監督署に提出するのが正しい手続きになります。

それでもケガであればまだ分かりやすいのですが、最近はうつ病などの精神疾患が増えており、業務に起因するものではないのかと思えても、実際に労災として処理されない現状があるのだと思います。

仮に労働者側において労災を十分に認識されたとしても、企業側は一般的に労災として処理することを嫌がります。なぜかといえば、労災(労働災害)が発生するということはそもそも企業の責任であり、本来は災害補償責任が企業に発生するのですが、労災保険が制度上企業から保険料を集めてその責任を肩代わりしているわけです。ですから労災が認定されて労働者が給付を受けられることになれば、会社の責任が明確になります(※ただし、通勤災害の場合は会社に責任は生じません)。

例えば、労働災害によって死者がでれば、会社は安全配慮義務違反として遺族から慰謝料請求をされるリスクがあります。さらに、労働安全衛生法に違反しているかのではないかと厳しく調査を受け、実際に違反があれば行政指導、あるいは刑事責任を追及されます。

また、労災の発生率によって会社が支払う労災保険料の負担が実質的に上がってしまう可能性もあります。

以上の理由から、労災を嫌がる会社も現実にありますし、労災なのか私傷病なのか判断の難しいケースであれば労災手続きを拒否することも多いでしょう。


しかしながら、ここで注意すべきことは、労災の申請は本人請求であるという事です。労災申請書類には事業主(会社)の証明する欄がありますが、どうしても会社が証明をしてくれない場合には、会社の証明なしでも申請は可能です。労災であるか否かを判断するのは会社ではありません。では誰が判断するものなのか。それは労働基準監督署長です。労働基準監督署長が申請書類を確認し、必要があれば聞き取りなどの調査を行い、最終的に労災の認定・不認定を決定します(※決定に不服があれば審査請求、裁判という流れになりますが)。

ということなので、少なくとも会社から「それは労災に該当しない」と言われたというだけで諦めることはありません。監督署の労災課に相談してみるのもいいでしょう。特に精神的な病気については監督署でも微妙な判断になると思われますが、ここ数年は精神障害に係る労災の認定件数、認定率は上昇していますので申請してみなければわからない面もあります。

労災保険は健康保険よりも補償面ではるかに上回ります。可能性があるのであれば確実に申請したいところです。



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