残業代を正しく計算するために自分の所定労働時間を把握する

労務管理がしっかりしていない会社はたいてい雇用契約の内容がはっきりしていません。その場合、労働条件通知書は交付されていませんし、雇用契約書も交わしていません。仮に契約書を交わしていたとしても、労働基準法第15条で定められた絶対的明示事項がきちんと列挙されていません。そういうずさんな会社ではまず就業規則もありません。あっても社長か上司の机の引き出しにしまってあって、法令上の周知義務は果たされていません。


これまで様々な会社を見てきた中で、最も曖昧になっていると思われる雇用契約の事項は、始業・終業時刻と休憩時間(所定労働時間)、そして休日です。

所定労働時間や休日がはっきりしなければ、どこからが時間外労働になるのかを把握することができませんし、さらに時間外割増賃金(深夜・休日含む)の時間当たり単価を計算することもできません。つまり、正確な給料、正確な残業代を計算できないのです。

賃金は毎月もらうものなので自分の契約上の所定の給料がよく分からないという方は少ないですが、自分の所定労働時間がいったい何時間なのか、年間の所定労働日数と所定休日数は何日なのか把握していない労働者は意外に多いと思われます(※把握できていたとしても、その所定労働時間が実は違法であることが認識できていないという場合もあります)。


特にそう感じるのは、サービス業、小売業、飲食業などのケースです。

月曜日〜金曜日の朝9時から夕方6時まで
休憩は昼1時間
土日週休2日でほか祝日・年末年始・夏季休暇

というような規則的で一般的な勤務形態であれば所定労働時間も所定休日も容易に分かるはずです。しかし、サービス業、小売業、飲食業などは多くの場合シフト制による交代制(あるいは年間カレンダー)を採用しており、シフト表や年間カレンダーに従って勤務することになります。

所定労働時間は法律で、原則1日8時間、週40時間までと上限が決まっていますが、前述の業種では例外的な制度である「1ヵ月単位の変形労働時間制」、または「1年単位の変形労働時間制」を使っており、「1ヵ月間」or「1年間」の枠内で収束するのであれば、1日8時間、週40時間を超えても法違反にはなりません。

そして、変形労働時間制を使った場合の所定労働時間の上限は以下になります。

・1ヵ月
  →約171時間(30日の月)
   約177時間(31日の月)
   160時間(28日の月)

・1年
  →約2,085時間


例えば、勤務表を見て、ひと月の労働時間が200時間近くあったり、年間の労働時間が2千数百時間あったという場合は明らかに労働基準法違反ですが、実際にはそういうケースも珍しくありません。1日の所定労働時間に対して休日数の設定が少ないことが原因であるように感じます。

この場合、上記の時間を超える部分は結果的に法定外残業ということになり、割増賃金の支給も必要になります。

労務管理のずさんな会社は、所定労働時間と時間外労働時間の線引きをきちんと行わず、月給者に対しては残業代を払わない、または固定のみなし残業代としていくらかを支給する(※この場合、実質の残業代がみなし残業代を超えても差額は支給しない)、時給者に対しては総労働時間のみを把握し、時給をかけて計算した金額を全て基本給の項目で支給する(※この場合には25%の割増率は当然つかない)というやり方が多いのではないかと考えられます。

ひどい会社になると、変形労働時間制すら運用せずにシフト制やローテーション制を組んでいるケースもあります(会社自体が変形制を知らない場合もある)。変形制を採用していると企業が言い張る場合でも、就業規則や労使協定を整備していなかったり、労働者に制度を周知していない場合には変形制は無効であり、その場合は原則の1日8時間、週40時間を超える部分は全て法定外残業になります。


このように自分の所定労働時間を知らなければ、純粋な所定労働時間に対する賃金額、そして所定労働時間を超える労働に対する残業代を正しく計算することはできません。

まずは自身の雇用契約書、就業規則などを確認し、それらがなければ会社に確認するのがよいでしょう。少なくともシフト表や年間カレンダーの類は写しでもよいので過去のものを保管しておいた方がよいと思います。



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