パートや契約社員はいつでも簡単にクビにできるという勘違い

企業が正社員をなかなか採用したがらず、パートタイマーや契約社員などの非正規雇用を使いたいと考える理由は、人件費の流動性と低額化の重視、つまり必要な時に安い賃金で雇い入れ、企業の都合の良いときに容易に解雇したいからです。

労働基準法においては特に正規と非正規の区別はなく一律に「労働者」と定められていますから、法的に正社員は賃金を高くしなければ違法だとか非正規社員は低くても許されるといったような制限はなく、企業が労働者と労働契約をどう締結するか、就業規則にどう規定しておくかによって、最低賃金法に抵触しない限り企業の意思で実質いかようにもできる訳ですが(※ただし同一価値労働の場合には賃金格差が問題になります)、しかしながら、いつでも容易に辞めさせられるというのは大きな間違いです。


解雇権濫用法理はパートであろうが正社員であろうが、期間の定めのない契約の労働者には同じように適用されます。パートタイマーと正社員の違いは労働時間の長さであり、少なくとも法的には身分保障に違いはありません。解雇を行うには正社員と同程度の解雇事由が求められます。

では有期契約労働者、つまり契約社員はどうなのかといえば、適正に契約期間が満了した場合には通常法的な問題は発生しません。ただし、契約の運用が適正でないと判断されれば、無期雇用契約と同様に解雇権濫用法理が適用され、実質解雇とみなされ解雇無効と判断される可能性があります。つまり「雇止め」の問題です。

※有期契約の雇止めについては過去の記事を参照
不当な雇止めには解雇権濫用法理が類推される - 労働者側の視点に立つ労働問題サポートブログ


最も注意すべきは契約期間がまだ満了していない契約期間途中の契約社員についてです。労働契約法には以下のような条文があります。

第十七条  使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

ここにある「やむを得ない事由」とは、通常の解雇事由よりもさらに重いものとされています。解雇の場合に求められる「客観的に合理的な理由」よりも、さらに高度な合理性が必要とされます。つまり有期雇用の中途解約は、正社員を解雇するよりも難しいのです。この辺りを勘違いし、契約社員はいつでも比較的簡単に辞めさせられると思い込んでいる経営者が実に多いのが現状です。



ただし、途中解約が簡単にできないのは労働者も同じなので注意です。民法には以下のような条文があります。

(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条  当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

ここにいう「やむを得ない事由」とは、例えば本人のケガ・病気、家族の看病などです。やむを得ない事由がないのに労働者が一方的に期間途中で退職した場合には、会社に具体的な損害が発生していれば損害賠償を請求される可能性も考えられます。ただし会社が認めれば途中退職も可能であり、ほとんどのケースは会社が認めることによって問題なく退職できているのが一般的だと思いますが、トラブルを起こして円満でない辞め方をする場合には注意が必要です。

また、例外として1年を超える期間を定める有期雇用契約で、初日から1年を超えた日以後については、やむを得ない事由がなくても会社に申し出ることによって退職することが可能です(労基法附則第137条)。



会社が明らかに非正規雇用であることを利用して解雇を通告、あるいは退職を強要してきたときには、それらが法的な根拠がないということを主張するとともに、本来の解雇事由が妥当なものといえるのかを検討したうえで対応を考える必要があります。



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