ロックアウト型退職勧奨への対応を考える

リーマンショック以降、外資系企業がリストラを行う際に「ロックアウト型退職勧奨」という手法がよく使われているといいます。

ロックアウト型退職勧奨とは、名前の通りターゲットとなる労働者を会社から強引に締め出して合意退職(or自主退職)させる方向にもっていくという、いかにも外資系らしい粗っぽい退職強要行為です。

流れとしては、まず該当の労働者を呼び出して通常の退職勧奨を行い、労働者が拒否すると自宅待機を命じて社員証やセキュリティカード・IDカード等をその場で返却させ、デスク・PCまわりは撤去し、ケースによっては勝手に私物をダンボールに詰めて自宅に送りつけてくるとのこと。

この場合、自宅待機中の賃金は100%支払われるそうですが、退職金の割増率などの退職条件を最初の退職勧奨時から時間の経過とともにどんどん引き下げて、心理的なプレッシャーをかけていきます。

会社に出勤することを許されず自宅に待機させられている労働者は、会社や自分の所属部署・同僚などの様子もわからず、あるいは周囲からの冷たい視線を感じ取り、二度と自分は職場に戻れないのではないのかと考え込み、合意退職条件が下がっていく中で精神的に追い詰められていきます。



日本における裁判では労働者に就業請求権はほぼ認められていない状況ですから、会社は労働者に仕事をさせる義務はなく、したがって自宅待機命令に対して違法性を主張するのはなかなか難しいと思われます(ただし、自宅待機中のも賃金は当然支払われなければなりません)。

また、セキュリティカード等の没収やオフィス立ち入り禁止などの強引ともいえる措置についても、退職勧奨を行い自宅待機を命じている労働者へのセキュリティ面(情報の持ち出しや破壊)を配慮したうえでの人事管理上の措置であると説明されれば、全く筋の通らない話とも言い切れません。

ただし、会社が自宅待機命令を行うにあたって、「もう会社には戻れない」「雇用契約は終了する」「退職に応じないのであれば会社側は有効に解雇できる」という趣旨の説明をすれば、これは虚偽や誤解、強迫に基づいた退職につながりかねません。会社の言葉を真に受ける必要はありませんし、実際にその説明でやむなく合意退職に応じれば退職の意思表示の無効を主張することができます。退職勧奨に応じなければ雇用契約が終了する理由などどこにもありません。


この手法はロックアウト型「解雇」とも呼ばれるようですが、あくまでも会社は形式上は合意退職(or自主退職)として処理するものと思われます。上記の流れで解雇を実行すれば、紛争になった際に不当解雇と判断される可能性は極めて高いでしょう。解雇の意思を通告された段階で即刻解雇理由証明書の交付を会社に求めて解雇理由を確定させるべきだと思います。

整理解雇と説明されるケースもあるようですが、整理解雇であれば現在の裁判所の判例となっている整理解雇の4要件を満たす形で解雇回避措置が十分に行われていなければなりません。事前に何の詳しい説明・協議もなしに「業績が悪いから辞めてもらう」と一方的に言われただけでは整理解雇は到底認められるものではありません。



近年、特に大企業は解雇を行えば会社側が法的に不利であることをよく理解しています。ですから余程のことがない限り解雇は行いません(その代わりに不当な配転・嫌がらせ・退職強要が増加しています)。

しかし、外資系企業は成果を出せない労働者を解雇するのは当然という文化があり、日本の労働規制の中においても前述のような粗っぽい手法によって労働者を排除しようとしてくるケースが現実にあります。

ロックアウト型退職勧奨は違法性が問題視されているものの、裁判所の判断がでていないため断定的なことがいえません。この危機に直面した労働者の方は、会社の退職勧奨の圧力に応じる前に専門家に相談することをお勧めします。



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