解雇予告と同時に休業を命じられた場合の賃金

会社から解雇を予告されて、その日以降解雇日までの30日間休業を同時に命じられ、労働基準法の定める休業手当60%のみが支払われた。これは法律的に問題はないのか。

という質問を受けることがあります。

解雇予告手当(平均賃金30日分)を支払いたくない会社の脱法手段として使われているようです。解雇ではなく労働者から退職を申し出た場合にも同様の手段が使われる可能性はあります。


まず結論からいうと、違法ではありません。


この場合、労働者側でとれる対応はかなり難しいと思われますが、ひとつだけ就業規則を確認しておくべきだと思います。

会社の責任で労働者を休ませたときの休業手当は、労働基準法により最低基準として平均賃金の6割以上が義務付けられていますが、一方、民法第526条第2項によれば、会社は賃金を100%全額支払わなければならないとされています。

この民法の規定は任意規定なので就業規則に別段の合意を定めれば排除できます。

つまり会社は休業手当を6割で済ませたければ就業規則にその旨を記載しておく必要があり、就業規則に何も規定がなければ休業手当は100%満額の支払いが必要になるということです。


また、休業を命じられる前に有給休暇を申し出るという方法も考えましたが、解雇予告と休業命令が同時であれば先に申し出ることができず負けてしまう為、現実的には難しいでしょうか。



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想像以上に高い試用期間中の解雇のハードル

入社後の数ヵ月間を試用期間として設定する会社が多いですが、試用期間中であれば労働者を会社の裁量でいつでも比較的自由に辞めさせることができると考えている経営者は少なくありません。

「まだ本採用ではないから、雇用契約は成立していない。」

「本採用拒否は解雇にはあたらない」

と考えているケースさえあります。

当然ですが、本採用前かどうかに関わらず雇用契約は成立していますし、試用期間中に会社の一方的な意思で労働者を辞めさせたり、試用期間終了後に本採用を拒否するのは法律上解雇にあたりますので、簡単に辞めさせることはできません。


試用期間は法律上、「解約権留保付き労働契約」といわれます。試用期間は社員の適格性を調査・判断する為の期間であり、適性の判断の最終決定のために解約権を留保している訳ですが、留保解約権の行使(本採用拒否・試用期間中の解雇)は通常の解雇に比べ広い範囲の解雇権が認められる(つまり解雇しやすい)といわれています。

しかしながら、留保解約権の行使には通常の解雇の考え方と同様、それなりの理由(客観的に合理的な理由)が求められます。

ですから

「想像してたよりも能力が低い。」
「何かいまひとつパッとしない」
「性格・雰囲気が社風に合わない」

などのハッキリしない理由で本採用拒否が認められないのはいうまでもありません。

そして、少なくとも最近の裁判例の流れは、試用期間中の留保解約権の行使が、前述した「通常の解雇よりも広範に認められる」という結果にはなっていません。

これらを考慮すると、現実的には、企業が試用期間を使って不適格と判定した労働者の本採用を拒否する行為は、実質的に通常の解雇と変わらないほどに極めてハードルが高く、明らかに悪質・違法・責任の重いと思われる行為でもない限り、ほぼ認めらることはないであろうと考えられます。


なお、念のためですが、「入社14日以内であれば簡単に解雇できる」と勘違いしている方をたまに見かけますが、正確には「入社後14日以内であれば解雇予告はいらない」ということであり、入社1日目であろうが解雇には相応の理由が求められます。



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労災か否かを判断するのは会社ではない

知人が病院に行ったとかそういう話を聞くと、職業柄「それは労災ではないのか?」とふと考えることがあります。

仕事中にケガをしたとか、業務が原因でケガや病気になった場合は労災に該当するのが通常ですが、このあたりをあまり意識せず病院に行って保険証を提示する労働者が少なくありません。保険証(健康保険被保険者証)は業務以外のケガ・病気の場合に使うものであり、労災に該当するケースでは使えない、つまり労災申請書類を病院に提出するか、ケースによっては労働基準監督署に提出するのが正しい手続きになります。

それでもケガであればまだ分かりやすいのですが、最近はうつ病などの精神疾患が増えており、業務に起因するものではないのかと思えても、実際に労災として処理されない現状があるのだと思います。

仮に労働者側において労災を十分に認識されたとしても、企業側は一般的に労災として処理することを嫌がります。なぜかといえば、労災(労働災害)が発生するということはそもそも企業の責任であり、本来は災害補償責任が企業に発生するのですが、労災保険が制度上企業から保険料を集めてその責任を肩代わりしているわけです。ですから労災が認定されて労働者が給付を受けられることになれば、会社の責任が明確になります(※ただし、通勤災害の場合は会社に責任は生じません)。

例えば、労働災害によって死者がでれば、会社は安全配慮義務違反として遺族から慰謝料請求をされるリスクがあります。さらに、労働安全衛生法に違反しているかのではないかと厳しく調査を受け、実際に違反があれば行政指導、あるいは刑事責任を追及されます。

また、労災の発生率によって会社が支払う労災保険料の負担が実質的に上がってしまう可能性もあります。

以上の理由から、労災を嫌がる会社も現実にありますし、労災なのか私傷病なのか判断の難しいケースであれば労災手続きを拒否することも多いでしょう。


しかしながら、ここで注意すべきことは、労災の申請は本人請求であるという事です。労災申請書類には事業主(会社)の証明する欄がありますが、どうしても会社が証明をしてくれない場合には、会社の証明なしでも申請は可能です。労災であるか否かを判断するのは会社ではありません。では誰が判断するものなのか。それは労働基準監督署長です。労働基準監督署長が申請書類を確認し、必要があれば聞き取りなどの調査を行い、最終的に労災の認定・不認定を決定します(※決定に不服があれば審査請求、裁判という流れになりますが)。

ということなので、少なくとも会社から「それは労災に該当しない」と言われたというだけで諦めることはありません。監督署の労災課に相談してみるのもいいでしょう。特に精神的な病気については監督署でも微妙な判断になると思われますが、ここ数年は精神障害に係る労災の認定件数、認定率は上昇していますので申請してみなければわからない面もあります。

労災保険は健康保険よりも補償面ではるかに上回ります。可能性があるのであれば確実に申請したいところです。



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残業代の請求は証拠の確保にかかっている

最近未払い残業代の請求事件が増えてきていますが、実際に残業の事実があったとしても必ず残業代を支払わせることができるわけではありません。残業の事実を立証する為の客観的な証拠の確保が何よりも重要になってきます。

通常、どこの会社でも労働時間の算定にあたってはタイムカード(or WEB勤怠システム)を利用しています。これによって出勤・退勤時刻を記録し、算定された時間を労働時間として把握します。

ですから当然タイムカードの写し(or 勤怠システムをプリントアウトしたもの)を入手するのが最も望ましいのですが、タイムカードは会社が管理している為、持ち出すのは難しいケースも多いと思われます。悪質な会社だとタイムカードを打刻させてから残業させることもあり、この場合はタイムカードでは残業の証明ができません。

ここで一般的によく、

「自分で終業時刻・帰宅時刻などを手帳などに毎日メモしておけば証拠として認められる」

と言われたりしますが、実際のところメモは客観性に欠けるため証拠としてはかなり弱いといえます(ないよりはあった方がよいですが)。

タイムカードなどの会社の勤怠管理上の正式な記録簿の入手が困難な場合には、他の様々な証拠を確保して複合的に証明していくしかありません。

例えば、

日報・業務報告書(終業時刻等の記載されたもの)のコピー、
残業時間中に送信したメールのコピー、
残業管理簿・残業許可申請書のコピー、
帰宅する際に立ち寄ったコンビニのレシート、
タクシーの領収書

など、所定時間外に会社に残って働いていたと推測されるものをできる限り集めます。そして、上記と併せて自分で残業時間や終業時刻、残業の経緯、残業の際に行った具体的な業務内容、一緒に残業した同僚などを細かく記録しておくことです。


また、残業をしていたことを証明する他に、残業手当が支払われていなかったことを主張する必要がありますので、給与明細書、雇用契約書(or 労働条件通知書)、就業規則(賃金規程)を準備しておいた方がよいでしょう。



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雇入れ時の健康診断費用は会社が負担すべきもの

直接労働トラブルにつながる可能性は低いと思われますが、非常によく質問される事項であり、別ブログで記事にした際にもアクセスが高く、一般的に関心の高い事柄と思われた為、従業員が入社した際の雇入れ時健康診断の費用負担について書きます。


結論から言うと、雇入れ時の健康診断の費用は会社が負担すべきものです。これは政府の通達によって明記されています。

しかしながら、現実には多くの企業が採用が決まった労働者に対して入社書類として健康診断書を提出するよう求めてきます。これはみな違法行為をしているということでしょうか。

実はこれは違法とはいえません。労働安全衛生規則という法令において、

「ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。」

と定められています。

要するに、

入社が決まった労働者が、たまたま最近(3ヵ月以内)健康診断を受けていてその診断書を持っているというのなら、それを提出してもらえば会社で健康診断を実施しなくてもいいよ例外的に、

と言っている訳です。

この規定を逆手にとって、採用内定者に入社書類として健康診断書を求め、健康診断の実施と費用負担の義務を多くの企業が免れているのが現状です。「健康診断を受けてきて下さい。」という言い方はせずに、あくまで「書類を提出して下さい。」と言っているところがミソです。会社は「受けろ」とはいえないのです。従業員に自費で受けて来ることを要求する根拠となる法律がないのです。

この現状は労働基準監督署などの監督行政も承知のうえですが、法違反とまではいえないため行政指導はできません。法令上の健康診断実施義務は会社にあり、労働者はそれを指摘して断ればよいという理屈になります。

しかし、普通は入社したばかりで会社に対してなかなか断れるものではありません。労働者が法令をたてに健康診断書の提出をずっと拒めば雇入れ時健康診断はいつまでも実施されないことになり、会社は労働安全衛生法違反として労基署の取り締まりの対象になります。これに関して法的に労働者の責任はありませんが、一方でこれから働いていく職場で肩身のせまい思いをしたり、今後会社から目をつけられて嫌がらせを受ける恐れも十分にあります。

自分はそういうことは平気なのでハッキリ言える自信があるという方でなければ、健康診断を自分で受けて提出した方が無難かもしれません。ただし、健康診断書を提出しないことを理由に会社が懲戒処分を科してくることは一般的に考えて妥当とは思えません。これについては争う余地は十分にあるでしょう。



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次回は契約更新しないと言われたときの対応

有期労働契約は期間満了で契約関係が終了するのが原則です。

しかし、契約関係の実態によっては解雇と同様に解雇権濫用法理が類推適用され、雇止めが無効になることもあります(※ちなみに無効とされた場合は、従前の契約が更新された場合と同様の効果が生じるとされています)。

そこで雇止めについてのリスク回避を考えている会社は、当該契約期間中(or 終了時)に更新拒否を通告してくるのではなく、ワンクッション置いて直前の契約更新時に

「契約更新は今回で最後とし、次は更新しない。」

という文言を契約書に入れてくることがあります。


これは契約更新の際に「次回の更新はない」ということについて合意があれば、労働者に更新の期待が生じることもなく、解雇権濫用法理は適用されないからです。これによって会社は問題なく有効に雇止めを行えることになります。

この場合、雇止めの理由について会社に証明書の交付を求めたとしても、

「前回の契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていたため」

という理由の記載で済んでしまうのです。

これからも働きたい労働者としては悩むところです。次回の更新がないことについて了承はしたくないし、かといって契約書に署名をしなければ今回の更新自体が行われないことになってしまいます。

ここで重要なことは、次回更新しないということについてお互いの合意が必要であるという点です。

ですから労働者側において納得できないということであれば、その旨を会社にはっきり伝え、契約書から次回不更新の文言をはずしてもらうよう申し出ることが必要です。契約書を変えることはできないと会社が言うのであれば、次回不更新に関して合意しない旨を記入したうえで署名・押印をするのがよいでしょう。

仮にこれらの労働者の行為をもって会社が契約更新拒否を持ち出してくれば明らかに不当な雇止めといえます。すぐに雇止め理由証明書の交付を求めるところでしょう。会社が応じない場合は労働基準監督署に申告することにより行政指導の対象となります。まさか雇止めの理由を「次回不更新に合意しなかった為」とは書けません。最終的に会社が提示する理由が妥当であるのか、また、前回の記事で書いたように契約の実態がどうであったのかに基づいて解雇権濫用法理が類推されるかどうか判断されることになります。

どうしても会社に対して不更新合意の拒否ができず、署名・押印してしまった場合であっても、民法の詐欺・強迫・錯誤などを根拠に後で合意の有効性について争える可能性もありますが、できる限り証拠に残る形の意思表示がよいと思います。



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不当な雇止めには解雇権濫用法理が類推される

有期労働契約で更新を繰り返して働いていたところ突然契約更新を拒否される雇止めの問題。

本来、有期労働契約は契約期間が満了したら契約は終了するのが原則であり、会社が適正に運用している限り問題は生じません。何十回更新したって問題ないと思われるケースも実はたくさんあります。

では雇止めが実際に問題だと判断されるのはどんな場合か。

まず第一に、契約の実態が期間の定めのない契約と実質的に異ならないと認められる場合です。

いくら会社が有期契約だと言い張ってもそれは形式的に体裁だけ有期契約にしてるだけであって、期間の定めがない契約と変わりないじゃないかと言えてしまう状態です。この場合、解雇権濫用法理が類推適用されます。つまり、解雇と同様に「合理的な理由」がなければ雇止めは無効ということになります。


次に実質期間の定めのない契約だったとまではいえないケースです。ここで問題となるのは、雇用継続について労働者に保護すべき合理的な期待があったと認められるかどうか、つまり労働者が更新を期待するのは無理もない状態だったかどうかです。

過去の裁判例では、このパターンにおいても解雇権濫用法理を類推すべきであると判断されています。


労働者が会社に対して雇止めが不当であると主張するためには、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態であったか、または雇用継続について合理的な期待があったと認められる必要があり、それら契約関係の実態を判断する際のポイントは簡潔に書くと以下のようになります。

1.業務の内容(恒常性・臨時性、正社員との同一性)
2.契約上の地位(基幹性・臨時性、正社員との同一性)
3.当事者の主観的態様
4.更新の実態(手続きの厳格性、更新回数・通算期間)
5.他の労働者の更新状況

例えば、

・ 正社員と同じ業務をやっていた
・ 「ずっと働いて欲しい」など継続雇用を期待させることを言われていた
・ 契約更新の際は面談などの話し合いはなく、毎回形式的に契約書にサインだけさせられた
・ 今まで更新されなかった有期契約労働者はほとんどいない

などの事柄が重なれば、雇い止めが無効と判断される可能性は高くなると考えられます。この辺りは一刀両断に線引きするのではなく、個々のケースごとに考える必要があります。

厚生労働省はルールをより明確にしてトラブルを防止する為、企業に向けて指針を公表しています。具体的には、雇用契約書に更新の有無および更新の判断基準を明記するよう求めています。まずは契約書にこれらの事項が記載されているか確認すべきですし、書かれていない基準によって更新を判断することは当然不当と考えられます。

なお、前回の記事で会社から解雇を通告された際は解雇理由証明書の交付を求めるよう書きましたが、雇止めを通告された際にも雇止めの理由を記載した証明書の交付が上記指針によって会社に義務付けられていますから忘れずに入手するべきです。



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