注意や指導を受けずに突然受けた解雇通告は無効

会社が労働者を解雇するには客観的に合理的な理由が必要です。

例えば

・遅刻を繰り返した
・無断欠勤をした(欠勤の連絡が遅れた)
・勤務態度が悪い
・仕事でミスをした
・能力が低い

などの理由で会社は解雇が行えるのか。

これは具体的な状況によりますが、解雇有効と認められる可能性もあります。これらの労働者の行為に対して、解雇という措置が社会通念上相当なものとして認められるものなのか、つまり一般人の感覚で「その理由なら解雇されても仕方ない」とほとんどの人が思えるほどに妥当な処分と言えるのかがポイントになります。


ただし、通常解雇を行うには、会社の解雇回避努力が必要といわれています。

解雇に踏み切る前に会社が労働者に対して十分に注意を与え、何度も指導・教育を行ってきたのか、場合によっては配置転換などを試みてきたのか、という解雇以外の方法で何とか解決しようとする会社の努力の過程が、世間で考えられているよりも裁判所からは重要視されます。

ですから、労働者の側に何かしらの非違行為があって会社に迷惑をかけてしまったとしても、その直後に「お前はクビだ、もう来なくていい」という趣旨の意思表示を突然受けたという場合には、十分に解雇無効を主張できる場面であると考えられます。

なお、例外として懲戒解雇は事前の教育・指導等がなくても一発解雇が許されます(その代り懲戒解雇が有効かどうかという別のもっと厳しい要件で判断されることになりますが)。ただし、会社が懲戒解雇を科すには、就業規則に懲戒事由を明示し労働者に周知していることが前提になります。

※この件の詳細は過去の記事を参照
就業規則の根拠規定なしで行った懲戒処分は無効 - 労働者側の視点に立つ労働問題サポートブログ


そのため、普通解雇なのか懲戒解雇なのかはっきりさせるためにも、解雇通告を受けた際には解雇理由証明書を必ず会社からもらっておく必要があります。

※解雇理由証明書の記事を参照
解雇通知書・解雇理由証明書を必ず入手する - 労働者側の視点に立つ労働問題サポートブログ


解雇理由証明書によって解雇通告の事実と会社の主張する解雇の理由をはっきりさせたうえで、それが普通解雇ならばまず解雇回避努力が尽くされてきたかを検討できますし、懲戒解雇であるならばまずは就業規則への記載・周知が適法に図られていたのかを検討し、そのうえでそれぞれ解雇理由に客観的合理性があり、加えて処分は社会通念上相当といえるものであったのかを考えることになります。



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パートや契約社員はいつでも簡単にクビにできるという勘違い

企業が正社員をなかなか採用したがらず、パートタイマーや契約社員などの非正規雇用を使いたいと考える理由は、人件費の流動性と低額化の重視、つまり必要な時に安い賃金で雇い入れ、企業の都合の良いときに容易に解雇したいからです。

労働基準法においては特に正規と非正規の区別はなく一律に「労働者」と定められていますから、法的に正社員は賃金を高くしなければ違法だとか非正規社員は低くても許されるといったような制限はなく、企業が労働者と労働契約をどう締結するか、就業規則にどう規定しておくかによって、最低賃金法に抵触しない限り企業の意思で実質いかようにもできる訳ですが(※ただし同一価値労働の場合には賃金格差が問題になります)、しかしながら、いつでも容易に辞めさせられるというのは大きな間違いです。


解雇権濫用法理はパートであろうが正社員であろうが、期間の定めのない契約の労働者には同じように適用されます。パートタイマーと正社員の違いは労働時間の長さであり、少なくとも法的には身分保障に違いはありません。解雇を行うには正社員と同程度の解雇事由が求められます。

では有期契約労働者、つまり契約社員はどうなのかといえば、適正に契約期間が満了した場合には通常法的な問題は発生しません。ただし、契約の運用が適正でないと判断されれば、無期雇用契約と同様に解雇権濫用法理が適用され、実質解雇とみなされ解雇無効と判断される可能性があります。つまり「雇止め」の問題です。

※有期契約の雇止めについては過去の記事を参照
不当な雇止めには解雇権濫用法理が類推される - 労働者側の視点に立つ労働問題サポートブログ


最も注意すべきは契約期間がまだ満了していない契約期間途中の契約社員についてです。労働契約法には以下のような条文があります。

第十七条  使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。

ここにある「やむを得ない事由」とは、通常の解雇事由よりもさらに重いものとされています。解雇の場合に求められる「客観的に合理的な理由」よりも、さらに高度な合理性が必要とされます。つまり有期雇用の中途解約は、正社員を解雇するよりも難しいのです。この辺りを勘違いし、契約社員はいつでも比較的簡単に辞めさせられると思い込んでいる経営者が実に多いのが現状です。



ただし、途中解約が簡単にできないのは労働者も同じなので注意です。民法には以下のような条文があります。

(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条  当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

ここにいう「やむを得ない事由」とは、例えば本人のケガ・病気、家族の看病などです。やむを得ない事由がないのに労働者が一方的に期間途中で退職した場合には、会社に具体的な損害が発生していれば損害賠償を請求される可能性も考えられます。ただし会社が認めれば途中退職も可能であり、ほとんどのケースは会社が認めることによって問題なく退職できているのが一般的だと思いますが、トラブルを起こして円満でない辞め方をする場合には注意が必要です。

また、例外として1年を超える期間を定める有期雇用契約で、初日から1年を超えた日以後については、やむを得ない事由がなくても会社に申し出ることによって退職することが可能です(労基法附則第137条)。



会社が明らかに非正規雇用であることを利用して解雇を通告、あるいは退職を強要してきたときには、それらが法的な根拠がないということを主張するとともに、本来の解雇事由が妥当なものといえるのかを検討したうえで対応を考える必要があります。



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名目は業務委託でも実態は雇用契約

企業はできることなら労働者を極力雇いたくないと考える傾向にあります。なぜなら労働者を雇い入れると

雇用保険社会保険に加入させなくてはならない
労働基準法等の様々な規制の対象になる(残業代・有給休暇・最低賃金など)
・業績が悪くなっても簡単に辞めさせることができない

これらが企業の負担になるからです。


そこで企業がよく使う手段が、労働者として雇用契約を結ぶのではなく、業務委託契や請負契約を締結して、個人事業主として外注扱いすることです。実態がどう見ても労働者なのにあくまで業務委託と言い張る悪質な会社も存在します。



法的にみて労働者に該当するのかどうか(労働者性の判断)は行政通達を基準にして判断されます。実際はケースバイケースなので通達の基準を個々に当てはめて推測することになります。

判断基準は色々な項目がありますが、特に重要と思われるのは以下です。


・会社からの仕事の依頼を断る自由があること
・本人の代わりに他者が業務に従事することが認められていること

これらは労働者性が低いと判断される際の重要なポイントになります。
(※逆に依頼を断る自由がなければ即労働者だといえるものではなく、契約上どうなっているかも重要になります。)


一方で、

・業務の遂行方法を会社が具体的に指示・命令している
・勤務時間が会社に決められ管理されている
・報酬が時間を基礎にして計算されている

という場合には、実質は労働者だと判断される可能性が高くなってきます。



いま挙げた事項に比べると重要度は落ちますが、他に考慮するポイントとしては、

他社の業務にも従事しているか
仕事に使う器具などは誰が負担しているのか
会社の服務規律が適用されているか

などの事項が考えられます。


以上の様々なポイントを総合的にみて個々に判断されるものですから、一律に機械的に線引きできるものではありません。


法的に労働者と認められれば、労基法による法的保護や労災を受けることができますし、不当な解雇の場合には解雇無効を主張することも可能です(一方で就業規則による規制を受けることになりますが。)休職する際には傷病手当金が受けられたり、退職後に失業給付を受けられる点は実生活上特に大きい問題だと思われます。

自分の契約が形式上は業務委託契約になっているが、実質は労働者なのではないかと思う方は前述のポイントを一回検討してみるのがよいと思います。



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就業規則の根拠規定なしで行った懲戒処分は無効

懲戒処分は職場秩序を維持する為に企業に認められた権利であり、従業員に非違行為があれば企業は制裁を科すことができます。

(※具体的には、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などがあります。)

ただし、この懲戒権は企業が最初から当然に有するものではなく、就業規則に根拠となる規定(懲戒の種類および程度)が記載され、労働者に周知されてはじめて行使できる権限なのです。


ですから

・自分の会社には就業規則がない
・会社に就業規則はあるが、懲戒条項が載っていない
・懲戒条項が記載されてはいたが、それ以前にそもそも就業規則自体を周知されていなかった

これらに該当する方が例えば「懲戒解雇」を通告された場合、その解雇は当然ながら無効と判断されます。

さらに、就業規則には懲戒の事由が明確に定められている必要がありますが、懲戒の対象となった労働者の非違行為がその事由に該当していなければやはり無効です。


就業規則の根拠規定なしで懲戒処分を通告された場合には懲戒処分通知を、懲戒解雇であれば解雇理由証明書を後々の為にとっておいた方がよいでしょう。懲戒解雇が無効と判断されれば雇用関係が継続していたと考えられる期間の賃金を請求できますし、場合によっては慰謝料請求の対象になる可能性も考えられます。


ちなみに懲戒解雇ではなく普通解雇であればどうなのかといえば、普通解雇の場合には就業規則の根拠規定がなくとも客観的に合理的な理由が存在すれば会社は解雇を行えるとされています。ですから特に解雇を通告された際には、後で解雇事由を変更・追加させない為にも、解雇理由証明書の交付を求め、何を事由とする解雇なのかをはっきり確定させることが重要です。



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「年俸制だから残業代はでない」は通用しない

年俸制の社員は賃金が年額で決まっているから残業代の支給対象にはならないと説明する会社の話はよく聞きますが、これは大きな間違いです。

労働基準法は、働いた時間に応じて賃金を支払えといっています。これは、時給だろうが、日給だろうが、月給だろうが、そしてもちろん年俸だろうが変わりません。時間外労働が発生すれば、年俸額から1時間当たりの時給単価を計算して残業代を支給しなければなりません。

では年俸制というのは一体何なのかといえば、あくまでも所定賃金の決定を年額で行っているというだけのものです。


労基法において、残業代を支給しなくてもよいとされる場面は、基本的に2パターンしかありません。

1.労基法第41条に規定されている労働者(管理監督者など)
2.みなし労働時間制(事業場外みなし、裁量労働制)の適用対象者

この2つに該当しない場合、例え年俸制を採用していても残業代が支払われなければなりません。

ちなみに管理監督者は、社内的に管理職であるかどうかではなく、法的に管理監督者の要件を実質満たしているかが問われます。また、みなし労働時間制にしても、ただ会社が導入しているつもりというのは通用せず、就業規則によって制度が労働者に周知され、法令上の要件をクリアしていなければ有効とはなりません。


また、年俸制において、賞与の額が予め確定している場合、例えば、

「年俸額を16で割り、毎月16分の1ずつを賃金として、夏冬にそれぞれ16分の2ずつを賞与として支給する。」

というような場合は、残業代の計算基礎に月例給与だけでなく賞与を12等分した額を加えることとされており、残業代の単価は高くなります。


なお、通常の月給制の場合と同様に、年俸額の中に残業代に相当する固定残業代、みなし残業代が含まれているとされる場合があります。この場合、就業規則(賃金規程)および雇用契約書にて、「何時間分の時間外労働としていくら設定されているのか」を明確にした上で周知されていなければなりません。そして実際の残業代が定額残業代を上回った場合は、超過分が毎月きちんと支払われていなければ違法になります。


以上、年俸制は残業代を支給しない根拠となりえないことにご注意ください。



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残業代を正しく計算するために自分の所定労働時間を把握する

労務管理がしっかりしていない会社はたいてい雇用契約の内容がはっきりしていません。その場合、労働条件通知書は交付されていませんし、雇用契約書も交わしていません。仮に契約書を交わしていたとしても、労働基準法第15条で定められた絶対的明示事項がきちんと列挙されていません。そういうずさんな会社ではまず就業規則もありません。あっても社長か上司の机の引き出しにしまってあって、法令上の周知義務は果たされていません。


これまで様々な会社を見てきた中で、最も曖昧になっていると思われる雇用契約の事項は、始業・終業時刻と休憩時間(所定労働時間)、そして休日です。

所定労働時間や休日がはっきりしなければ、どこからが時間外労働になるのかを把握することができませんし、さらに時間外割増賃金(深夜・休日含む)の時間当たり単価を計算することもできません。つまり、正確な給料、正確な残業代を計算できないのです。

賃金は毎月もらうものなので自分の契約上の所定の給料がよく分からないという方は少ないですが、自分の所定労働時間がいったい何時間なのか、年間の所定労働日数と所定休日数は何日なのか把握していない労働者は意外に多いと思われます(※把握できていたとしても、その所定労働時間が実は違法であることが認識できていないという場合もあります)。


特にそう感じるのは、サービス業、小売業、飲食業などのケースです。

月曜日〜金曜日の朝9時から夕方6時まで
休憩は昼1時間
土日週休2日でほか祝日・年末年始・夏季休暇

というような規則的で一般的な勤務形態であれば所定労働時間も所定休日も容易に分かるはずです。しかし、サービス業、小売業、飲食業などは多くの場合シフト制による交代制(あるいは年間カレンダー)を採用しており、シフト表や年間カレンダーに従って勤務することになります。

所定労働時間は法律で、原則1日8時間、週40時間までと上限が決まっていますが、前述の業種では例外的な制度である「1ヵ月単位の変形労働時間制」、または「1年単位の変形労働時間制」を使っており、「1ヵ月間」or「1年間」の枠内で収束するのであれば、1日8時間、週40時間を超えても法違反にはなりません。

そして、変形労働時間制を使った場合の所定労働時間の上限は以下になります。

・1ヵ月
  →約171時間(30日の月)
   約177時間(31日の月)
   160時間(28日の月)

・1年
  →約2,085時間


例えば、勤務表を見て、ひと月の労働時間が200時間近くあったり、年間の労働時間が2千数百時間あったという場合は明らかに労働基準法違反ですが、実際にはそういうケースも珍しくありません。1日の所定労働時間に対して休日数の設定が少ないことが原因であるように感じます。

この場合、上記の時間を超える部分は結果的に法定外残業ということになり、割増賃金の支給も必要になります。

労務管理のずさんな会社は、所定労働時間と時間外労働時間の線引きをきちんと行わず、月給者に対しては残業代を払わない、または固定のみなし残業代としていくらかを支給する(※この場合、実質の残業代がみなし残業代を超えても差額は支給しない)、時給者に対しては総労働時間のみを把握し、時給をかけて計算した金額を全て基本給の項目で支給する(※この場合には25%の割増率は当然つかない)というやり方が多いのではないかと考えられます。

ひどい会社になると、変形労働時間制すら運用せずにシフト制やローテーション制を組んでいるケースもあります(会社自体が変形制を知らない場合もある)。変形制を採用していると企業が言い張る場合でも、就業規則や労使協定を整備していなかったり、労働者に制度を周知していない場合には変形制は無効であり、その場合は原則の1日8時間、週40時間を超える部分は全て法定外残業になります。


このように自分の所定労働時間を知らなければ、純粋な所定労働時間に対する賃金額、そして所定労働時間を超える労働に対する残業代を正しく計算することはできません。

まずは自身の雇用契約書、就業規則などを確認し、それらがなければ会社に確認するのがよいでしょう。少なくともシフト表や年間カレンダーの類は写しでもよいので過去のものを保管しておいた方がよいと思います。



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固定残業代・みなし残業代は超過分を支払っていなければ無効

人気ロールケーキ「堂島ロール」の製造販売会社が残業代不払いで労働基準監督署の是正勧告を受けたようです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120601-00000008-mai-soci


ニュースによれば同社はみなし残業時間を設定し、残業代込みの賃金を支払っていたが、実際の残業時間がみなし残業時間を大きく超過していた為、過去2年の未払い賃金の支払いを命じられたとのことです。



毎月定額のみなし残業代と聞くと、何だかまるで何時間残業しようが決まった分しかもらえないように思えますが、それは勘違いです。

みなし残業代は労働基準法上は明確に言及されていませんが、過去の裁判例に基づいた厳密な要件があり、実際の残業時間によって計算された残業代が固定のみなし残業代を超えた場合には、超過分をきちんと毎月支払わなければ、そもそもなみし残業代の運用自体が有効とはみなされないのです。


もしも自分の会社でみなし残業代が運用されていて、明らかに実際の残業代を超過していると思われるのに超過分の支給がないということであれば、就業規則雇用契約書において何時間分の時間外労働に対していくらの定額残業代が支払われるのかを確認しておいたうえで(※もし記載がなければそもそもみなし残業代の運用は認められません。)、毎日の残業時間を客観的な記録に残しておき、後で請求できるように準備しておくのがよいと思われます。

※労働時間の客観的な記録については過去の記事を参照
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