労働基準監督署に相談するうえでの注意点

労働問題で悩んでいるときに最初に思いつくのが、労働基準監督署に相談することだと思います。理由は費用がかからないことが大きいです。また、労働者の味方となって悪い会社を懲らしめてくれるイメージがあるのかもしれません。

もちろん労基署は労働者の相談にのってくれますし、アドバイスをくれたり、場合によっては調査に乗りだすこともあると思います。状況や条件次第では悩んでいる問題が全て解決する場合も多々あると思います。しかし、最初から過度な期待をすると、後で後悔する結果につながるかもしれません。

注意する点は以下です。

1.労働基準法以外の事件に対応できない
労働基準監督署労働基準法(労安衛法・最低賃金法等含む)について取り締まる行政機関である為、それ以外の法令の問題となる事件には介入できません。

具体的にいうと、不当解雇、雇い止め、労働条件の引き下げ、退職強要、セクハラ・パワハラ、配転・出向などに関するトラブルは労働基準法に違反するとはいえない為、労働基準監督署では強行的な対応がとれません。

例えば、突然理由もなく解雇されたとして監督署に相談した場合、監督署は「30日前の解雇予告 or 解雇予告手当の支払い」があったかを確認してきます。そしてそれらが満たされていた場合、監督署はそれ以上の口出しはできず、当事者同士で話し合うかあるいは裁判などの方法を促されるでしょう。


2.必ずしも会社から金銭を回収してくれるとは限らない
労基署および労働基準監督官の本来の仕事は、会社の違法行為を注意したうえで将来に向かって改善させることであり、未払いの賃金や残業代、解雇予告手当、慰謝料などの労働者の債権を回収することではありません。

ですから仮に未払いの残業代が1年分あることを監督官に申告したとして、結果的に監督官が会社に対して遡って支払うよう命じた残業代が3ヵ月分であったとしても、これが監督官の職務怠慢ということにはならないのです。残りの9ヵ月分は自分で話し合いなどして取り戻すしかありません。


3.多忙な為、そう簡単には動いてくれない
会社の数に対して労働基準監督官の人数が圧倒的に足りていない現実があり、大半の労働トラブルに手が回らない状況である為、対応できる案件は必然的に限られてきます。労基署には日々大量の相談や申告が寄せられており、全てに対応することは物理的に不可能なのです。

監督官に動いてもらう為には、明確な違反行為が認められること(労働基準法の何条に違反するのか特定できること)、ある程度の証拠が揃っていることが必要だと思います。もちろん会社の行為が悪質と判断されるかどうかも重要だと思います(※労基署も実際のところ、会社に労基法を全て遵守させることは現実的には難しいと考えています)。



これらの状況に直面して失望する方もいるかもしれません。なかなか思っていた通りに物事は進まないものです。労基署の目的は法令順守状況の監督であり、個別の労働者の救済ではないからです。お役所ですから担当者によっても対応はだいぶ違うかもしれません。

一般的に無料でとれる手段にはそれなりの効果しか期待できないと考えた方が無難だと思います。ただし、失望する結果になったとしても、報酬を払って専門家に依頼する選択肢で状況が変わることも十分に考えられるので、ここであきらめるのは早いと思います。



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